「絶対に負けるもんか!」と思った時の話

エッセイ

あれは確か私が33歳とか34歳の時だったかな、派遣会社から仕事の依頼があって、とある出版社で仕事をすることになりました。

仕事内容については、あまり詳しい事を書いてしまうと身バレしてしまいそうなので書けませんが(^^;担当することになった雑誌は2つで、お客様と電話などで直接やりとりすることもあるような部署でした、とだけ言っておきます。

仕事の契約期間は、9月1日から翌年の8月31日までの1年間。

私が引き継ぐことになったのは、Aさんと言う私より少し若い女性の方の仕事でした。

Aさんが退職されるため、私がAさんから仕事を引き継ぎ、翌年の春にAさんの仕事を担当する新入社員が入ってきたら4月~6月くらいの3ヶ月間で新人さんの指導をして、無事に仕事の引継ぎを終えて新人さんが一人で仕事をこなせるようになったのを見届けてから、8月31日で退職、と言った予定となっていました。

 

こうして、予定通りに9月から仕事が始まりまして、Aさんが退職されるまでの引継ぎ期間は、1ヶ月間。

時間は十分とまでは言えませんでしたが、何とかなるだろうとさほど焦ってはいなかった私でしたが、仕事初日からギョッとした事がありました。

それは、Aさんとご挨拶をして、さっそくAさんのデスクに案内されて、私はAさんの隣のデスクをあてがわれて仕事を教わることになったんですけど、Aさんのデスクが、同じ部署の周りの方のデスクとは一目瞭然で異彩を放っていたのです。

どう異彩を放っていたかと言いますと、Aさんのデスクの上のパソコンが、ライオンのたてがみ、もしくは、ウニ。

細い付箋が、液晶画面のフレームにびっしりと貼られていたのです。

さらに、デスクの椅子を入れるスペースの足元に、まぁまぁな大きさのダンボールが3個も詰め込まれていて、椅子に座っても脚をデスクの下にほとんど入れて座ることが出来ない状態でした。

こ、これは・・・どう言うことだろう(・・;?

とちょっと疑問に思いましたけど、でも、Aさんは終始にこやかでしたし、この状況についての説明もないし、とりたてて問題なさそうに見えました。

 

ところがです。

Aさんは毎日、朝に「これやっておいてもらえますか?」と、特に難しくも無く誰でも出来そうな仕事を私に指示しては、ふらりとどこかへ行ってしまうと言うのを繰り返していました。

Aさん曰く「退職するので、他部署にご挨拶に行かないとね(*^-^*)」とのことで、退職前の他部署への連絡や引継ぎなんかが大変なんだろうな~と思ったまま1週間が過ぎ、そろそろ2週間が過ぎようとしていたのですが、さすがに私も不安に思い始めていました。

すると、それまで話をしたこともなかった同じ部署の男性社員の方が1人フラリと私の所へ来て

「なばなさ~ん、あのね、Aさんを捕まえて引継ぎさせないと、あの人、引継ぎしないまま退職しちゃうよぉ。」

と教えてくれたのです。

その言葉を聞いた瞬間、私は全てを理解して、自分がどれだけヤバい立場に置かれているのかを悟りました。

Aさんは、にこやかで優しい人なのではなくて、私の想像を絶するほど無責任な人だったのです。

ちゃんと仕事をする気がないから、同じ部署の人たちがAさんへの連絡やお客様からの問い合わせを付箋にメモしてパソコンに貼り付けてくれても、一切処理せず放置している結果が、ライオンのたてがみみたいになっているパソコンで。

見て見ぬふりしてきた書類たちが、足元の押し込まれているダンボールの中身だったと言うわけです。

そしてもちろん、私にしっかり引継ぎしようとも思っていないし、毎日仕事がしたくないから色んな部署へふらふらと行ってはおしゃべりをして時間を潰して時間稼ぎ、そのまま退職の日までのらりくらりとやって会社を辞めようと思っている人だったのです。

その事を知っていた他の社員の方たちが、私の様子を見て心配してくれていたんだなって初めて気づきました。

あの時は、マジで焦りましたね。

仕事の引継ぎが全く終わっていないばかりか、Aさんが放置してきたお客様からの連絡やお問い合わせの対応も、放置されてきた仕事の数々も、Aさんが退職してから全て私がやらなければならないことが確定したのですから。

 

でも、この事実に気付いてから、最初はもの凄く焦りながらAさんが戻ってくるのを待っていたんですけど、待っている間にAさんのあまりにも酷い無責任っぷりがなんだか無性に腹が立ってきまして「こんな無責任な人に絶対に負けるもんか!」て思ったんですよね。

意味わかんないけですけど。笑

それで私、「Aさんに絶対に引継ぎさせてやる!ライオンみたいになっている付箋も全部確認する!ダンボールの中身も全部引継ぎさせてやるっ!」って思いまして、実際、Aさんがやっとデスクに戻って来た時には半ば命令口調になって「Aさん、そろそろ引継ぎして下さい!!!」と声を大にして言ったのでした。

するとAさんは、ちょっと怯んだ様子でしたが、この期に及んで「でも、これからちょっと上の部署に挨拶に・・・」なんて言いだしたので、私はその言葉を遮るように「でも!Aさんが退職されるまであと2週間しかないので、困ります!」と負けずに言い返したら、さすがに周りの目も気になったのか、渋々、本当に渋々と言った感じで自分のデスクに座って、引継ぎを始めたのでした。

それからはもう、引継ぎと言うより、私が聞き出す感じで問い詰めて仕事を教えてもらい、パソコンに張り付いて放置されたままになっている付箋の1枚1枚を、順番に片付けていく作業に追われました。

そうこうしているうちに、あっと言う間にAさんが退職する日をむかえて、彼女はさっさと退職して行かれました。

でも、足元に無責任に残された段ボール3箱は、誰が何と言おうと100%Aさんの責任ですからね、退職したAさんを私は電話で会社に呼び出しまして、「段ボールの中身の対応の仕方を1つ1つ指示して下さい。指示してくれれば、あとは私がやるので、指示をメモに残して下さい!」と言うと、「私も退職して、次の仕事があるので、呼び出されても困るんですよねぇ~」なんて言ってきたので、「でも、これ!全部Aさんが放置していったものですよね!Aさんの責任ですよね!」と言い返すと、黙ってダンボールの中身の確認と指示を口頭で伝えはじめ、私がその指示をメモにとって、やっと対応できるようになったのでした。

 

こうして、Aさんが退職して以降の10月から、私は粛々と日々の業務を何とかこなしつつ、並行してAさんが残していったダンボール3箱分にもなる書類の山と仕事をコツコツと片付ける日々。

社員の殆どが既に帰宅しているのに派遣社員の私が23時頃まで残業なんてことも、よくありました。

そして、Aさんに依頼や問い合わせを放置されていたお客様や支店への対応に追わることにもなって、クレーム対応の仕事でもないのに何で私はこんなにも毎日毎日「申し訳ありません!」と電話越しに謝っているんだろう?と思った日もありました。

でも、「あんな無責任な人に絶対に負けるもんか!」と言う気持ちが私の心の支えになって、新入社員の方が入社される2ヶ月ほど前に、ライオンのたてがみのようだった付箋も、段ボール3箱分の書類も、全て片付け終わったんですよぉぉぉ~(TT)

この時は、仕事中だったけど思わず「やっっったぁぁぁーーー!ダンボール全部片付いたーーー!(≧◇≦)」と両手を挙げて喜んでしまいましたし、それを見ていた私の目の前のデスクの社員さん2人が「おおー!(^O^)」っとパチパチと拍手をしてくれて嬉しかったです。

 

こうして、Aさんから引き継いだぐちゃぐちゃだった私のデスクは、付箋も足元のダンボールも無い綺麗なデスクになり、新人さんが来てからは、本来の業務だけの引継ぎをするだけで済みました。

まだ右も左も分からず不安であろう新人さんに、訳の分からない余分な仕事をさせるなんて、可愛そうですからね。

新人さんにいきなりトラウマになるような状態のデスクを引き継がせなくて済んだことは、自分でも本当に良かったなって今でも思います。

そして、無責任なAさんに最後まで負けなかった自分が、今でもちょっと自慢です(^^)Vへっへっへ。

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